平成14年 群馬県透析懇話会
透析患者さんの頸動脈波形の検討
―簡便かつ有用な動脈硬化の指標―
渡辺内科クリニック透析室
渡辺幸康・新井理恵・富沢ミキ
[はじめに]一般に透析患者さんでは動脈硬化が健常者に比較して強いことが知られているが、今回我々は透析患者さんと非透析患者さんの頸動脈波形を測定し、動脈硬化との相関を検討した。また、さらに血管の狭窄などの病的変化があると高くなると言われている『ATI』という新たなパラメーターに着目し、動脈硬化の指標としての有用性について検討を加えた。
[研究目的]ですが、
1. 透析患者さんの動脈硬化の進行度を解析する。
2. 頸動脈波形を測定し、ATIという新たなパラメーターに着目し、動脈硬化の指標としての有効性を検討する。
3. ATIと大動脈石灰化係数(ACI)・IMT・Fontaineの分類・心エコーとの相関を検討する。
4. ATIと動脈硬化性疾患との相関を検討する。
5. 虚血性心疾患・脳血管障害・ASOなどの動脈硬化性疾患の予防に貢献する。
[患者対象(年代別)]ですが、当院の血液透析患者40症例、非透析患者40症例(外来の患者)の計80症例について検討を加えました。平均年齢は透析患者で64.5歳、非透析患者で63.6歳でした。
性別では透析患者、男性27例、女性13例、非透析患者男性11例、女性29例、平均年齢は透析患者、男性
62.7歳、女性68.2です。
臨床的合併症は透析患者で糖尿病40%、高血圧90%、虚血性心疾患60%、脳血管障害25%、非透析患者では糖尿病22.5%、高血圧72.5%、虚血性心疾患
37.5%、脳血管障害17.5%でした。
臨床データーですが、ヘマトクリット、総コレステロールは透析患者で有意に低く、収縮期血圧は透析患者で有意に高かったが、拡張期血圧と心胸比、Fonteineの分類については有意差はなかった。
1. 頸動脈血流波形・ATI・頸動脈内膜中膜複合体(IMT)と心エコーの測定方法ですが、超音波パルスドプラ装置GE横河メディカルLOGIQ 400 PROシリーズを用いて、6.7MHz高周波プローベにて、内頸動脈と外頸動脈の分岐部直前の総頸動脈にサンプルボリュームを置き、頸動脈血流波形からATI(Acceleration Time Index)の測定、および、Pignoliらの方法により、頸動脈内膜中膜複合体(IMT)を測定した。次に、3.3MHzのプローベを使用して心エコーを施行し、心機能を測定した。
2. 大動脈石灰化係数;ACI(Aortic Calcification Index)の測定法については、胸部レントゲンから、日高病院の石田らの方法により、大動脈弓部を円とみたてて12等分し、石灰化した部分の%を測定した。
3. 統計学的有意差検定はStat View Version 5.0にて行い、
いずれの検定においてもP<0.05を統計学的に有意とした。
[頸動脈波形の測定]は右頸部にて、6.7MHzの高周波プローベを用いて行いました。
[頸動脈波形測定法]です。内頸動脈と外頸動脈の分岐部直前1㎝の総頸動脈中央にサンプルボリュームを置き、各種血流波形のパラメーターを測定しました。
[頸動脈ATIの測定方法]ですが、二村らの方法に従って、頸動脈波形の立ち上がりからピークまでの時間AT(Acceleration Time)を一心拍時間PT(Periodic Time)で除してATIを求めました。
[ATIの臨床的意義]ですが、近年、超音波パルスドプラ法の進歩に伴って、各種臓器の血流波形が測定され、その解析が行われているが、最近はATIという新たなパラメーターが注目をあびている。
一般にATIは血管の狭窄などの病的変化があると高くなるが、肝臓癌や腎臓癌などの腫瘍性血管で有意に高くなる。このように、血管の血流波形を測定することによって、疾患の良性・悪性の質的診断までもが可能になりつつある。このように、ATIは血管の質的構造変化を反映するものと思われる。
そこで、今回我々は頸動脈の血流波形・ATIを測定することによって、動脈硬化症の診断に役立てられないかと考えました。
IMTはPignoliらの方法に従って、前斜位・側面・後斜位の各縦断像で最大の頸動脈内膜中膜肥厚度を示す部位を中心として中枢側1cmおよび遠位側1cm、計3ポイントのfar wallの肥厚度の平均を求めIMTとしました。スライドに示しますように、頸動脈の内側の高エコーの部分、すなわち、内膜とその外側の低エコーの部分、すなわち、中膜の部分を合わせた厚みとして評価しました。
大動脈石灰化係数(ACI)日高病院の石田らの方法に従い測定しました。
IMTと年齢との相関ですが、IMTはtotal群と非HD群では年齢と正の相関を示したが、HD群では相関を示さなかった。
ACIと年齢との相関ですが、ACIはtotal群と非HD群では年齢と正の相関を示したが、HD群では相関は示さなかった。
ATIと年齢との相関ですが、ATIはtotal群とHD群で年齢と正の相関を示したが、非HD群では相関は示さなかった。
ATIは透析患者は非透析患者に比べて有意に高値を示しました。
頸動脈ATIは年齢とともに上昇するが、透析患者の方が非透析患者に比べて、若い年代から上昇していることがわかります。
次に、ATIと各種動脈硬化パラメーターとの相関についてですが、まず、ATIとIMTの相関は、total群、非HD群で正の相関を示すが、HD群では相関を示しませんでした。
ACIとATIとの相関についてですが、total群・非HD群で正の相関を示しますが、HD群では相関を示しませんでした。
ATIとFontaineの分類との相関についてですが、total群、HD群ともに、正の相関を示しています。
先ほどのATIとFontaineの分類のグラフを透析・非透析に分けて脳血管障害合併患者さんの特徴を評価したグラフですが、脳血管障害合併透析患者さんでは赤のボックスの中、すなわち、Fontaineの分類2度以上、ATI10%以上に多く認められることがわかります。
ATIと動脈硬化性疾患の合併について調べたグラフですが、脳血管障害と虚血性心疾患を合併する症例は、スライドで赤で示された症例ですが、ATI10%以上に多く認められることがわかります。
透析患者40例のみについて検討したグラフですが、糖尿病合併群は非合併群に比べて、また、脳血管障害合併群は非合併群に比べて、有意にATIが高いことがわかります。
しかし、喫煙歴、高血圧、虚血性心疾患については有意差は認められませんでした。男性に比べて女性の方がATIが高いのは女性の方が高齢者が多いことに起因しているものと思われます。
ATIと心機能EFとの相関についてですが、total群、非HDでは負の相関を示しますが、HD群については相関関係は認められませんでした。
[まとめ]ですが、
1. 透析患者の頸動脈ATIは年齢と正の相関を示す。
2. 透析患者の頸動脈ATIはFontaineの分類と正の相関を示す。
3. 透析患者の頸動脈ATIは非透析患者に比べて有意に高く、年齢と共に高くなる。
4. 透析患者の頸動脈ATIは糖尿病・脳血管障害を合併するほど有意に高い。
5. 脳血管障害を合併する透析患者ではATI≧10%、Fontaineの分類≧2度の症例が多い。
6. 頸動脈ATIは簡便かつ有用な動脈硬化の指標であるものと思われる。
[結語]ですが、今回我々は、ATIという新たなパラメーターに着目し、超音波パルスドプラ法を用いて、頸動脈血流波形のFFT解析により、ATIの動脈硬化の指標としての有用性について検討した。その結果、透析患者においては、ATIは加齢・Fontaineの分類・HDの有無・DMと脳血管障害との間に密接な関連性を認めることが判明した。以上より、ATIは透析患者において、有用かつ簡便な動脈硬化の指標になりうる可能性が示唆された。
動脈硬化を評価する方法としては、現在までにスライドに示すような指標があげられますが、ATIも今後、これら動脈硬化の指標の1つに加えられる可能性があるものと思われます。